Prima donna



「おはよう、若。もぅ朝だよ?」


15分後。
「若?朝ごはん出来たよ?規則正しい生活をしなければ美は保てないぞ?」

「…ん〜。」

こんな朝は珍しい事ではない。





「若、サラダから食べ始めなければダメだ。
 最初にサラダから食べれば、肉や魚の余分な脂肪分を葉っぱが吸い取ってくれるからな。」

「…ん〜。」
シャキシャキ…





鈴木が食器を片づけている間、死々若はさっそく横になった。
昨夜は割と遅くまで起きていた。
と言うのも、鈴木のせいである。
鈴木はたまに子供返りでもするのか、激しく求める事がある。
腕力では敵わないので、大人しく応じるのだが、次の日の朝にはケロッとしている鈴木が多少恨めしかった。





「若、食後すぐに横になってはダメだ。余計な肉がついて美しくなくなってしまう。」

「…るさい。」

「ダメだ。ほら、しゃんとして。
 散歩でも行くか。」


そう言いつつ、鈴木は死々若を片手で抱いている。
このままでは死々若がしゃんとする訳がないのだが、
鈴木曰く、
「見た目が美しい散歩だから」
だそうだ。
死々若にしても、自分はしゃんとするどころか眠たいので、その方がありがたかった。


約30分の散歩を終えて、帰宅する。
次は鈴木が洗濯を始めるので、死々若は読書か昼寝ができる。
いつもなら昼寝をしていても何も言われないのだが、この日は…

「若、しゃんとして。新聞でも読め。」


一言あった。
しかも、新聞なんて物、人間界に興味のない死々若には楽しい読み物ではない。
真面目に読むフリをして、死々若は偉そうな人間のじいさんに落書きを始めた。
反抗しても良かったのだが、今日の鈴木はうるさい系だ。
面倒な言い争いになるのは目に見えているので、大人しくしていた方が良い。

しかし、気付いたら死々若は新聞の上に突っ伏して眠ってしまっていた。
何しろ、3時頃まで求められ、起こされたのは7時である。
数十年生きているとは言え、妖怪としてみれば、死々若はまだ子供である。
そんな睡眠時間で足りる訳がないのだ。

そして今日の鈴木。





「死々若〜。新聞の上で寝てしまったのか。
 ほら、顔を上げろ…。やはりインクが写っているではないか。
 ちょっと待ってろ。」

「…ん〜。」

少しして、鈴木はシルクの布と水を持ってやって来た。

「お前の美しい肌を傷つけてはならんからな。」

死々若はまだ眠そうな顔をしながら、鈴木に身を任せている。
そんな事をしていたら、もぅお昼の準備をするような時間だった。

「毎週土曜日は若がランチの準備をする日だったな。
 今日は何を作るんだ?」

「んえ?
 …考えてなかった。」

「仕方ないな。台所に何かあるから、あるもので何か頼んだぞ。」

「…ん〜。」


もはや睡魔の方が強い死々若は言いなりである。
結局、死々若はキャベツとコンビーフの和風煮込みを作った。
洗い物は鈴木が「眠そうだから」とやってくれた。





そして、一休みした後、鈴木は言い放った。


「今日は街まで下りようか。
 土曜日だから、人間もたくさん居て賑わっていることだろう。」

「…ん〜。」

「おしゃれをしなければ。」
と、鈴木は自室にこもったが、20分もすると支度を終え、死々若のコーディネートにかかった。

「今日はゴシックな気分だな。」
と出来上がった死々若の格好は、フリル襟の黒いブラウスに、後ろだけ裾の長いコルセット、英字新聞柄の黒いパンツ姿に、髪をアップにして小さな帽子を被せられた。
胸に赤い薔薇のコサージュを飾って終了。


やはり死々若を片手に抱いて幻海の寺の山を降りる。


電車ではかなり人目を引いた。
鈴木が執事服のような出で立ちだったこともあるだろうが、普段はもっと派手な格好をしているので、これくらいは二人とも慣れっこだった。





街についてからは、まずプリクラを5回撮り、デパートで新しい服を視察。
もちろん、死々若を片手に抱いて。

「ジェラートは食べ歩きするものだ。」
と買い食いをする。
死々若の口内にバニラの甘い香りが広がった。

「口の端についているぞ。」
そう言って、鈴木は死々若の口元に唇を寄せる。

周りがざわっとしたようだが、死々若はもぅどうでも良くなっていた。

もぅ一度デパートに戻って、気に入った物を購入し、二人はカフェに入って、死々若はやっと椅子に座れた。
そうは言っても、鈴木に気を遣っている訳でもないのだが。

眠気はもぅなかった。
ただ、今日の鈴木はやたらと口うるさい。

「赤いベルベットのドレスは若の青い髪に映えるだろう。」
「こっちのオリーブの花柄は大人っぽくて良いな。」
「しかし、イエローのギンガムチェックは子供だな。」
「このジャンパースカートにソックスまでロリータ柄にしてはバカらしい。」
「何て私は美しいのだろう。」


ウィンナーコーヒーを飲みながら、また言った。
「私は何て美しいのだろう。」


ほふう…。
とため息をつく。





そして、死々若の中で、何かがはじけた。


「うるさい。」





大好きなマルコ・ポーロティーのポットの注ぎ口を鈴木の頭に向けた。


「あっつ!!!」

「ふん。」





死々若はそのまま姿を眩ました。
その様を見て、鈴木はようやく我が身を振り返った。

「…またやってしまった。」

死々若は、構わなければいけないが、構いすぎてもいけないのだ。

そう言えば、いつも反抗するところで今日は黙っていた。
素直になる時は、機嫌の良い時と、そうでない時がある。
鈴木はまだその時の微妙な差を見分けられないで居た。
こうなったら、死々若が機嫌を直すまで待たなければならない。





死々若は、街で世界の境目の薄くなっているところを見つけて、次元を開き魔界に来ていた。
魔界と人間界が少しずつ歩み寄ってからは、簡単に世界を行き来できるようになっていた。

こんな時に向かうのは、決まって陣と凍矢の元だった。


「おい、陣を借りるぞ?」

「ほへ?」

「あ…ああ。」


おやつを食べていた二人は驚きながらも、「いつもの喧嘩だ」とアイコンタクトし、引っ張られていた陣は自分から歩きだす。


「おめ、また今日も変なかっこしてんだな。」

「オレの趣味ではない。」

「まぁいいべ、魔界の空飛んだら、気分も良くなるだよ!」


二人の間に会話はない。
しかし、正反対な二人であるのに、何故か一緒に居て苦痛ではないのだった。
陣は死々若を抱き上げて空を自由自在に飛び回る。

魔界の上層部は、割とメルヘンな場所も多く、全ての神や音楽の女神の住む場所もあった。
ユニコーンやケンタウロスなども居り、ところどころに花畑がある。
一見、死々若の好みそうな場所ではなかったのだが、そう思って陣が下層部の岩場を飛んだら悪鬼と化した死々若がその辺を破壊するという事件があってからは、陣はそのような場所へは行かない。
やはり、どんな生き物であっても、美しい場所の方が心は休まるのだろう。





一晩飛んだだろうか。
そこの湖で先ほどまで歌っていたルサルカが水の底へと帰って行った。


「帰る。」

「んだな。その方が良いべ。」


陣に送ってもらい、帰途に着いた。
彼は朝方まで元気であった。
外はもぅ明るいと言うのに、部屋には明かりが灯っていた。


「寝る。」

「!死々若、おかえり!ごめんな〜」

「うるさい。寝る。」


寺にいつもの空気が戻った。


END
***************************************************************************************************************************
ん〜とですね、これは「ローマの休日」に感化されて書いたのですが、
あまり上手く書けなかったってのが正直な感想です。はい。←
でも、鈴木は若になんでもやってあげそうだな〜って思うのです。
そんな中、若が嫌気さしてどこか行っちゃうとかありそうだな〜と思うのです。
ただ、上手くまとめられず、文章検定でも受けようかと思いますよ。