Nessun dorma



最近、死々若の様子がおかしい。
いつも規則正しく生活していたはずなのに、昼寝の時間が増えたように思う。

そして、それは2、3日続き、後に戻るのだ。

何故、それを知り得ているのかと言うと、たまに同じ現象が起こるからである。



「最近は昼寝が長いな。具合でも悪いのか?」

そんな風に尋ねたこともあったが、彼は決まってオレの質問に否定する。
実際、少し疲れているように見えるくらいで、発熱も吐き気もなさそうだった。


そして、そんな時には本を読むオレの膝を枕にして眠る死々若が愛しく、追求することはなかった。





オレは半年に一度は、魔界の奥に出かけ、研究材料やインスピレーションを求める。
一人の方が集中できて気楽なので、死々若は置いて行く。
しかし、彼とてまだ幼い部分がある。
出かける時は必ず不機嫌になり、家を出る寸前まで顔も見せてくれなくなるのだ。
オレは苦笑しながら頭にキスをして出かける。





それが常だった。





オレの旅は短くても1週間、長くて一月になる。

ただ、今回は愛情のインスピレーションが湧いたのか、死々若の顔や声が恋しく、
3日で来た道を戻った。

家に帰った時は夜中だったが、死々若の寝顔が見られればそれで良かった。
何もセックスだけが愛情ではない。



しかし、死々若はオレの期待を良い意味で裏切るように起きていた。


「珍しいな。1時だと言うのに起きて居たのか。」

「おかえり。」

「ああ、ただいま。」


そう言って、また彼の頭にキスをする。
月明かりの中、縁側に腰かけていた彼が妖艶で、電気も付けずに家に入って来たが、夜はさすがに冷える。
死々若の肩を抱くと、案の定冷たくなっていた。


「いつからここに居たんだ?寒いから布団に入ろう。」


そう言って死々若を連れて部屋に戻り、明かりを付けた。
何てことはない動作だったが、死々若はうつむいている。


「…明かりを消せ。」

「?…何故だ?美しいお前の顔が見られないではないか。」

「さっきまでは月明かりで見とれていただろう。」

「気付いていたか。」


苦笑するしかなかった。
だが、オレはそこでやっと気付いた。

死々若の目に、ハッキリとクマができていた。


「死々若…寝てないのか?」

「………浮気していた。そいつに唆されてな。オレはもぅ寝る。」

「え?」


死々若が浮気をすることは考えられなかった。
それより彼を唆した者の正体が気になった。
しかし、クマを作っていた死々若に言及する気も起きず、材料の整理などをしようと研究室へ向かう事にした。



冷えて暗い部屋に、赤い小さな光が目立った。
不思議に見ながら電気を点けると、オーディオの電源が入ったままだった。

(音楽聴きながら研究なんて、久しくしていないのに…)

一応、中にCDが入っていないか確かめる。
すると1枚のCDが出て来た。
そのタイトルを見て、オレはハッとした。


「Nessun dorma…」





足早に死々若の部屋に向かう。
襖を開けると、宣言通り死々若は布団に入っていた。


「死々若、起きろ。キスをさせてくれ。」

「…急に入って来て何なんだ。無礼者。」

「"誰も寝てはならぬ"のだろう?」

「!」

「今夜も寝かさない事に決めた。」

「…っ///お前、何故それを?」

「そんな事はどうでも良いだろう。さぁ、オレの名前は鈴木だ。おいで?死々若丸。」

「うるさい、寝かせろ。」


「Nessun dorma.」





END
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勢いで書いてしまいました。
「Nessun dorma」は、最後に鈴木が言ったように「誰も寝てはならない」という意味のイタリア語です。
トリノオリンピックで荒川選手が金を取った時の曲です。
有名ですが、ちょっと説明すると、

■「トゥーランドット」というオペラの中の1曲なのですが、
 美しい中国の姫・トゥーランドットは男性不信で、その美しさに惹かれて口説く男たちに謎をかけ、
3つ正解しなければ処刑していました。
 異国の王子が謎に挑み、見事正解するのですが、結婚を拒むトゥーランドット。
 そこに王子は「私の名を当てたら処刑されましょう」と逆に謎を出します。
 勝利を確信した王子が歌っているのが、「誰も寝てはならぬ」です。
…だからこそ、最後、鈴木に名前を言わせましたw

ちなみに、さらにこの話を説明すると、
死々若は鈴木が旅に出る度、一人研究室でこの歌を聞き、
「寝てはならない」と鈴木の帰りを夜な夜な待ち、昼夜逆転してしまっていた。
いつもは鈴木のコンシーラーを拝借して隠して治していた…。
という乙女設定があります←