il bacio


「おはよう、若」

チュッ

「若、おやすみ」

チュッ




鈴木は頻繁にキスをする。
何故だかは分からない。

鈴木は「愛情表現は小まめに行わないとな」と言って居たが、
正直、そんなものが愛情表現とやらになっているのかも、いささか疑問だ。
一日に2〜3回なら耐えられるのだろうが、数えきれない程されても当たり前になりすぎて、もはや何の行為だかも分からない。





洗濯物を干し終わった時、
「終わったよ」
チュッ

おやつの時、
「口元にクリームが付いているかもしれない」
チュッ

散歩の時に、急に目の前に立ちはだかられて、
チュ…





オレには鈴木の考えが分からなかった。





ある日、鈴木は研究材料を漁りに魔界の森へと出かけた。
帰ってくるのは数日後だろう。
2〜3カ月に一度は、そうやって出かけて行く奴なので、オレも慣れている。
たまには、一人で自分の世話ごっこをするのも面白い。


ところが、数日どころか、1週間経っても、半月経っても鈴木は帰ってこなかった。
最初の1週間は心配なんてしていなかったが、半月も一人で過ごすなんて、ここ数年なかった。
何だか良い気分ではない。

どこで何をしているのだろうか。
確かに、鈴木が1カ月以上家を空ける事もあった。
だが、そういった時は必ず連絡が来たり、前もって言ったりして行く。

凍矢と陣のところにも、酎のところにも、鈴駆のところにも、連絡はないようだった。

「心配なんだな」

凍矢がそう言ったが、別にそんな訳ではない。


ただ…





ふん。
どうせ、1月もすれば、なんでもない顔で帰ってくるだろう。
オレは一人で生活もできないような、どうしようもない生き物ではない。


そして、1カ月経った。


何故だろう。

鈴木にキスをされる夢を見た。
いや、正確にはキスをされそうな夢だった。
唇と唇が触れる寸前で目が覚めてしまったのだ。
…。

時計を見ると、明け方の5時だった。
朝日が昇りかけ、空はうっすらブルーになり明るかった。


ガタッ

魔界へと続く鏡の方から音がした。
オレは思わず、その部屋に向かった。

「鈴木?」

「ああ、ただい…」
チュッ…

「え、死々若?」

「ふん…」

「…ただいま、若」





オレもキスがしたかったのかもしれない。





END
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うん、若からキスする話を書きたかっただけです!