Coloratura




10月に入った。
最近は朝夕とても寒い。

「まだ10月」と言うべきか、「もう10月」と言うべきか。

しかし、そんな思考の罠にはまらなくとも、寒いことに変わりはない。
この寺は山の中なのだし、そろそろ炬燵を出した方が良いだろう。
ホットカーペットも死々若の部屋に敷いてやらなければならない。

最近の寒さのせいで死々若は大抵いつも小さく、何枚も重ね着しているので、まるで「ふくら雀」のようだった。
そんな若も可愛いが、美しいボディラインが消えてしまうのは良くない。


ただ、「寒くて小さい若になること」には利点があった。

その鳥のような足に合う靴下の類がなく、足先が寒いために、いつもオレの肩か頭に止まっている。
オレがソファに座ろうが、研究中に仮眠をとろうが、器用に自分の定位置を変えてオレの上に居る。
そんな小さい若は愛らしかった。





そういえば、こんな事があった。


9月の中旬に、真夏日の次の日の雨のせいで急に冷え込んだ事があった日だ。

オレは次の研究に使う材料のメモを取りながら、白鳥を七色に変える薬の開発をしていたのだが、
どうもオレは複数のことを同時進行するのに向いてないらしい。
気付いたら手元が疎かになり、もぅすぐできあがるはずの薬の仕上げ液が蒸発して半分になってしまったのだ。

お菓子作りと一緒で薬の開発に分量測定は第一に重視されるべきもの。
分量が合わなければ、正しい反応は起きない。


「…っあ〜!…やってしまった。」


その時、死々若はオレの頭の上で丸くなって寝ていたようだった。
オレの漏らした一言で目を覚ました気配がしたが、オレは気付かなかった事にし、美しい金の装飾がされた天がい付きのベッドに倒れ込んだ。
死々若はひらりと舞って、今度はオレの肩の辺りに止まった。
そして、いつの間にかうとうとしていたのだ。





♪〜


夢の中で、誰かが歌っているようだった。
それは、小鳥のさえずりのようにコロコロと軽やかなメロディで、オレをさらに深い眠りへと誘った。










「おい、起きろ。」


カリカリカリカリ…


「…ん〜?痛いよ、死々若。」

「早く飯を作れ。」

「ああ、すまん。すっかり眠ってしまったな。」


オレは夢の歌など忘れて、家事に取り掛かった。
しかし、すぐにそのことを思い出す事となった。


味噌汁を作っているところに、夢と全く同じ歌が聞こえた。

優しくて、丁寧で、品のある声だ。

オレと出会うより前、幼い頃に居た土地の言葉なのだろうか。
その口が織り成す意味は分からなかったが、意味など必要としない程安心感があった。
つまり、あの鳥のような特徴は、決して伊達ではなかったのだ。





END
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若さんって、鳥的な種族に近いと思うんです。
もし、白髪や銀髪だったら、アルビノちゃんなのかなぁ。とか思ったりしてます。
私自身が歌好きなので、好きなキャラも歌好きにしてしまいがちなのは、わんこのデフォです。