Will you merry me?4




話がまとまってからのゾルディック家の奥方は凄まじかった。
世界有数のデザイナーを集め、様々な素材の布をイルミにあてがいデッサンさせる。
「指輪はヒソカさん。ドレスは私に任せて頂戴!」断る暇もなく、
イルミも慣れっ子のようで「母さんの好きにさせてあげて」と言い、シルバは「キキョウは操れない」とまで言う始末。
ゼノが唯一キキョウの勢いを阻止しようと言葉をかけたが、聞いている様子はなかった。

_女性の方がドレスのこだわりが強いのだろうし。
と、ヒソカも諦めて、最高の指輪を用意するためシルバに仕事の斡旋を頼んでいた。

「ゾルディック家と関わる者はみな、暗殺の仕事のいろはを覚えてもらう」
そう条件にも組み込まれていた事もあったが、お給料まで貰えるとなれば喜ばない事はない。
暗歩は似たようなことを元々行っていたので難なくクリア、イルミの指導で肢曲を3日でマスターし、
現場にはイルミの手伝いで行ったこともあるので一人での実践となったが、ヒソカは酷く面喰った。
殺しが全く楽しくないのである。
殺気を出しても固まってしまうか、良くてもノロノロ逃げ出すターゲットたち。
_そう言えば、イルミが手伝ってほしいと言う時はいつも大量虐殺や念の使い手だったっけ。
イルミはよくこんなことを続けていられるなぁと思いながら、帰途についた。





「ヒソカさん、いかがかしら!?」


キキョウのカナリアのような声で呼ばれてリビングに行くと、ホイップクリームにイチゴ、
そして所々ピンクパールでデコレーションされたイルミが立って居た。


「奇術師の貴方の花嫁にピッタリじゃなくって?」

「ああ、イルミ…美味しそうだねぇ♪」

「オレ、動けないんだけど。」


あら、そうだったわね。と何かを見落としていたことに気付いたキキョウが執事を呼びイルミをバスルームへ運ばせると、
さらにデザイナーたちを呼びつけ、ああでもない、こうでもない…と頭をひねらせていた。
ヒソカは、イルミの天然の由来はここだったかと一人で納得していた。





「今日は一日着せ替えごっこだったの?」

「うん。オレの仕事をヒソカがそのままやってるって訳。」

「退屈だったよ。」

「オレも。」

「じゃあ、楽しいことしようか♪」


そう言葉をかけて、ヒソカはイルミの耳を齧った。

翌朝も、その翌朝も暗殺の仕事に出かけて行くヒソカ。
毎日毎日、ドレスのモデルとなるイルミ。

イルミは母の着せ替えごっこに慣れていたが、ヒソカは興味のない人間に手を下す事に飽き飽きしているのが、イルミには手に取るように分かった。
しかし、両親の思う通りに仕事ができなければ認められないのは事実だが、ヒソカはゾルディックの婿になる訳ではない事もまた事実。
母にそれとなくほのめかしても、わかってるわよ、と流されるだけでイルミはため息をついた。


「母さん、オレあれがいい。」

「ん、なぁにイルミ?」










そして挙式当日となった。

ゾルディック家の屋敷内にある広間に家族や執事たちが勢揃いし、
イルミが「かわいいから」と神父役に選んだ、優しい顔のゼブロが中央に立って主役の登場を待った。
キルアも帰省し、ゴンと出席している。
一方、ヒソカの親類は誰も居なかったが、執事たちの人数によって席に着く余地もなかった。

ヒソカは白いタキシードを着て、トランプを混ぜながらイルミの到着を待っていた。
…が、あまりに遅いのですっかり飽きてしまっている。
座りこむ事こそしなかったものの、完全にトランプの世界に居た。

そんな時、シルバと腕を組んだイルミが厳かに入場して来る。

何故か白無垢を着ている。
ヒソカは凝りに凝ったドレスを着るものだと思い込んでいたので多少驚いたが、ジャポン好きのイルミらしいとすぐ笑顔になった。
着物の白とイルミの漆黒の髪に赤い口紅が素晴らしいコントラストだった。

イルミは着物なら着なれているものの、少し長い白無垢の裾捌きに困っていた。
そんなイルミをシルバから受け取ると、抱き上げて祭壇の前まで運んだため、驚いた聖歌隊のメロディーが一瞬途絶えた。
それを感じ取ったイルミは不吉だと思った。

ゼブロがわざとカタコトの言葉遣いで口上を述べるのを聞いて、イルミが「普通でいいよ」と声をかけた。
「お気遣いありがとうございます。イルミ様、おめでとうございます。」
ゼブロは自分の子供が結婚するかのように喜んでいるようだった。

ヴェールは持ち上げなかったが、誓いのキスをし、式は滞りなく進んだ。
ヒソカの選んだ指輪はシンプルな物だったが、ヒソカが"二人が離れる事のないように"念を込めたもので、その気持ちが嬉しいイルミだった。
リングピローはこの日のために、キキョウがシルクとレースを手縫いしたものだ。

イルミのお色直しの間、同じ広間があっという間に披露宴会場へと早変わりし、ゴンは目を白黒させていた。
家族、特に曾祖父の誕生日パーティーなどで似たような光景を見て居たキルアはゴンをエスコートし、ちゃっかり自分の家族の元へと導いた。
シルバの「お前は特別だからな」という視線は見ないふりをして。

披露宴も御馳走やら、イルミの幼い頃のビデオやらで盛り上がりを見せ、15回のお色直しを終える頃には日が暮れていた。
そのドレスたちはどれも個性的であったが、挙式の方には相応しくない物ばかりでヒソカはこっそり胸をなでおろしていた。
執事たちは交代で給仕と客席を埋めていたようだ。

終盤になり、イルミが両親に手紙を読んだ。


「父さん、母さんへ
 1/4世紀もオレを育ててくれてありがとう。
 父さんは暗殺の技術を1からオレに丁寧に教えてくれたね。
 母さんは家族の健康のために毎朝早起きして手作りの毒入り朝ごはんを作ってくれたね。
 厳しいかどうかは分からないけど、オレにとっては最高の家族です。
 オレは家を出るけど、いつまでもみんなを思っているよ。
                               イルミより」


シルバとキキョウは「あの子が初めて自分で着るものを望んだのよ」などと号泣していたが、キルアとゴンは少し引いていた。
ヒソカはそれこそ慣れっこで、すでに披露宴に飽きてトランプタワーをテーブルの上に作っている。
そんな状況下にも関わらず、執事たちは惜しみない拍手をイルミに向けている。

ふと、イルミは「オレの人生はこれで大丈夫か?」と当然の疑問を抱いたが、まぁいっか。と持ち前のマイペースで前向きにこの状況を忘れていた。






NEXT SOON...
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結婚式もさほど興味がないのがばればれな文章になってしまいました;;;
現代人は記念写真で済ませる人も多いですよね。
ただ、ゾルディック家が盛大にやらない訳がない。
ヒソカとイルミよ、幸せになっておくれ。
この後ももぅ少し続きます。