Will you merry me?3


せっかくパドキアに来たのは良いが、肝心なシルバのスケジュールを把握していなかったヒソカは、4日ほど待つことになった。
その間はイルミも仕事に出かけ、一人温泉で過ごした。

_お呼ばれした時も、この温泉に来たっけ。

一人思い出に浸りながら、シルバを説得させる切り札を考える。
そもそも、付き合っている事すら報告していない。
と、言うのも、イルミが本気で自分を思ってくれていることが分かったのが先日の飛行船の中での話し合いの時だったからだ。

そう言えば、自分も相手を信じていなかった。
だからこそ、"NO"の返事を聞きたくなくて、イルミの都合が良さそうな条件を考えたのだ。
しかし、自分の考えに反してイルミは自分に対して本気だった。

この事実が邪魔をしてヒソカは浮足立ち、あまり考え事ができなくなっていた。


_なんて言ったら良いのかな?





そして、シルバから指定された日時となった。
ゾルディック家の執事たちがヒソカを温泉まで迎えに来てくれ、車で移動する。
その間もヒソカはシルバへの挨拶を考えていたが、上手くまとまらなかった。
車は試しの門で止まった。
ゼブロが神妙な面持ちで迎えてくれた。
その雰囲気からして、自分がイルミとの挨拶に来たことは屋敷内の人間には分かっているようだった。


「心配しているのかい?」

「いいえ、滅相もございません。ただ…。」

「大丈夫、ご主人様を殺すようなことはしないよ♪」

「…お気をつけて。」


ゼブロが心配しているのは自分の身だと言う事は分かっていたが、ヒソカは心外だった。





執事室で待たされ、イルミと合流する。
この日のイルミは深い緑の睡蓮模様があしらわれた着物に銀の簪をつけていた。

「ヒソカ、正装してこなかったの?」

「動きやすい方が良いかと思ってね♪」

「山はもぅ登ったんだから、着替えてきなよ。ゴトー、ヒソカにスーツを。」

「かしこまりました。」

「意外と、父さんも母さんも礼儀は気にする人だからね。」

_化粧も落として。

と洗顔フォームを渡された。





屋敷の客室へ通され、イルミと二人で待つ。
その間、イルミの緊張が伝わってくるようだった。
「大丈夫」と言うように、隣で冷たくなった手を握り締めた。

そこへ、正装したシルバとキキョウが入ってくる。


「ごきげんよう。」

「こんにちは。」


立ちあがろうとするヒソカとイルミを制止し、執事の引いた椅子に座るとシルバから話題を切り出した。


「ヒソカ君と言ったかな。うちのイルミは女じゃないんだが。」

「はい。性別に関係なく、彼の事を大切に思っています。」

「それは嬉しい。しかし、イルミは跡取りではないものの、うちの大事な息子だ。簡単に猫の子のようにやるわけにはいかない。」

「もちろん、お義父さんの納得のいくやり方で答えさせて頂きます。」

「そうか…。」


言いきるか言いきらないかという時間の狭間に、ヒソカはシルバの目の光を見た。
百獣の王の目。
ゾルディックの当主、ククルーマウンテンの頂上に居る男。
その者の目だった。

シルバの念によって和室だった部屋はあっという間に廃墟と化し、二人の攻防が始まった。

その中で、イルミが自分を失い、キキョウに手を引かれるまま流れてくる拳やトランプをかわしていた。


「イルミ、しっかりなさい。大丈夫よ。あなたの選んだ人なのだから。」


キキョウの声もむなしく、イルミは父親と恋人に揺れる完全な人形となっていた。










_この世で一番強いのは父さん。

そう教え込まれて育ち、自身が念を覚えてからもその呪縛は解けていない。

「イルミ。もし、お前が仕事でお前より強い奴と戦い、命を落としたとしても大丈夫だ。父さんが必ず敵を取るからな。」

_だから、安心して殺すといい。

幼い頃から何度も言われていた言葉だけが頭の中で反響していた。
擦りこまれた感情。
無くした感情。
奥底に眠っている感情。










「イルミ、君を愛しているよ。」

_何よりも大事だ。

そう言って抱きしめられた時に温かさ。
穏やかな光に満ちた甘い時間。
それを与えてくれたヒソカ。

全てが湧きあがり、気付いたら戦う二人の中心に遮るように立って居た。




止めるつもりだったのかすら分からない。




事実、二人の動きは止まった。
その代償がイルミの右腕だった。

シルバの念によってちぎられた腕は形を保ちながらも彼方へ吹き飛ばされた。
ヒソカのトランプが、イルミを避けるようにヒラヒラと舞っている。


「イルミ!」

「イルミ…。」

「あなた、なんて事を!」

「…ヒソカ…。」

「…分かった。イルミ、父さんが悪かった。あいつは攻撃を止められたのに、オレはお前を撃ってしまった。父親失格だ。」

「父さん…!」

「ヒソカ君。好きにしろとは言わないが、大事にしてやってくれないか。」

「もちろん。」


シルバは「関わった時間だけが全てではない…か」とつぶやきながら客室を後にした。
残されたイルミは気を失ってその場に座り込み、止血も忘れられた腕をヒソカがバンジーガムで縛る。





_人形のようだった、あのイルミがな…。

少し寂しそうにシルバは息子の門出を祝う決意を固めた。







「ゴトー!イルミの腕を探して来てちょうだい!早く!」

「かしこまりました。」

「ああ、なんてこと!なんてこと!」

「お義母さん、大丈夫です。念の糸の使い手を知っているので、手術は任せてください。」

「普通の手術より治るのが早いとでも言うの!?その方が来るまでイルミの腕は無くなったままなのよ!」

「ええ、2週間くらいで完治します。」

「まぁ…そう…。こほん、取り乱してしまってスミマセンわ。イルミを部屋まで運んで下さる?」

「もちろん。」

「ヒソカさん、あなたハンサムね。」

「それはどうも♪」


イルミの部屋へと案内しながら、キキョウはイルミとの結婚に対して細かい条件を出してきた。

衣食住に関して最高級の物を用意すること。
お正月や家族の誕生日などにはゾルディック家に帰省すること。
ゾルディック家のしきたりには従うこと。

「いつの間にそこまで決められていたのかと驚いた」と伝えると、シルバとキキョウは夜な夜な二人で話合い、この4日間でまとめたそうだ。

ヒソカはさっそく、「世の中の騒ぐ姑問題とかこれのことか」と感じていた。

しかし、イルミを見るヒソカの目は、普段からは考えられない程慈愛に満ちた眼差しで、一人の男としての強さを兼ね持った光だった。





NEXT SOON...
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プロポーズまでは想像できますが、現実的に両親への挨拶となるとすごく難しいですよね。
私は恋人を両親に紹介した経験がないので、さっぱり妄想できずこの体たらくです(苦笑)
書きたいのはこの先なんだ…!
と自分に言い聞かせながら、皆さんに甘えています←