Vedrai,carino




僕の(心の)恋人、イルミは何にも興味がないように見えて、面倒見がいい。
例えば、カフェやバールで食事をする時、イルミのために椅子を引くのは僕の役目だけど、フォークやナイフを先に差し出すのはイルミだ。
それに、彼は食べ方もキレイで、プチトマトもナイフとフォークで食べるイルミが食べ物を零すのを僕は見たことがない。
逆に、僕がたまに零したものを(僕だってキレイに食べるよ)清潔なナプキンで拭いてくれる。
有料のデートであっても、彼の気まぐれなデートの時…つまり無料であっても、その心遣いは変わらなかった。


「面倒見がいいね♪」

「弟がたくさん居るからね。」


このやり取りが日常だった。





この前のお正月なんて、彼は付きっきりで看病してくれた。


「ジャポンのジョヤのベルが聞きたい」そう言ったイルミの願いを叶えたくて、
大晦日の日にフィリッピーネで仕事を終わらせてきた彼と、キョートで待ち合わせをして夕方からお寺に居た。
他にも観光の外国人が目立ったが、現地のジャッポネーゼも居てイルミは屋台のうどんを食べながらウキウキしていたみたいだった。
もちろん、イルミは割り箸を僕に渡してくれた。
そんなイルミの姿に、可愛いと思いながら、僕はマフラーをするのを忘れて出かけて来たために、なかなか寒かった。
イルミはジャポンについて調べたらしく、膨らんだ雀のように着膨れしていた。


「イルミ、着物は着ないのかい?」

「ジャポンでは年が明けてから着るみたいだからね。」


イルミが持ってきた、大きなトランクに期待を寄せつつ、僕もうどんにシチミをたくさんかけて頬張った。


ベルの厳かな音が鳴り響き、0時を迎えた。
年が明けた瞬間にキスをしたかったが、イルミが隣で目を閉じて祈りをささげているので、僕も目を閉じた。
その後、様子を見ていたジャポネーゼからの"お祈りは神社の前でするんだよ"という言葉に、イルミは恥ずかしそうにしていた。





「リンゴキャンディーと、チョコバナーヌと、コットンキャンディ…。」

「どうしたんだい?」

「どれにしようかな〜」

「じゃあ、僕がリンゴキャンディーとチョコバナーヌ、コットンキャンディを買って、君に好きなだけあげるよ♪」

「でも、オレ、残しちゃうし。」

「それは僕が食べるよ♪」


イルミは食べ物を残すのが嫌いだ。
だから、お金なんて掃いて捨てるほど持っているのに、自分が食べられる分しか買わない。
結局、リンゴキャンディーも大きいのか小さいのか、どっちを買うかで悩み抜いて小さい方を買い、
チョコバナーヌはオジサンに頼んでミルクチョコ・イチゴチョコ・チョコミントの3色を塗ってもらった。
コットンキャンディはジャポン語で「割り箸」と書かれた変なデザインの袋に入った物を選び、寝る前に少し食べて、残りは起きてから食べる事にした。

夜は250年続く由緒正しい旅館の1室で、部屋についている露天風呂を楽しんだ。


「ヒソカ狭い。」

「こんなにスペース空いてるじゃないか♪」

「ヒソカがオレを抱っこするからだろ?」

「イルミが冷えないようにだよ♪」

「なんか当たってるんだけど。」

「♪」


文句を言いながら、大人しく抱っこされている。
そんなイルミが愛おしくて、僕は少し力を込めて彼を抱きしめた。
ふと、イルミが少しだけこちらを向いた。
伏し目がちになって居て視線がどこに向けられているかは分からないが、このポーズは甘えている証拠だ。
お団子に結った髪を軽くひっぱり、口づけした。
雪がちらちらと舞う中、僕らは結ばれた。





次の日、約束通りイルミは持参した赤い着物を着て僕と歩いた。
僕はと言うと、彼が一緒に持ってきた黒い紋付き袴姿だった。
(イルミのトランクが大きな訳が分かった)
袴なんて初めて着るから、「どうやって着るのか分からないよ」と言ったが、「オレが着せる」と、10分程で着替えさせられた。
そして、自分も20分かからずきっちり着こなし、今はまた神社を歩いている。
「ハツモウデをしなくちゃ」と妙にジャポンのお祝いの仕方にこだわるイルミも愛らしい。
ズキズキする頭を抱えながら、僕はイルミに付き合った。

イルミの着ている着物は、「鮮やかな赤」と言うよりも、「落ちついた赤」で彼の黒いハーフアップにした髪にとても似合っている。
髪飾りは、大きなコサージュに、しだれ桜のような飾り花のついたしゃれた物。
そして、"ホウオウ"という縁起の良い鳥が描かれているせいか、本人の美しさのせいか、
通り過ぎる人々が振り返り視線をぶつける程、イルミは完成されたドールのようだった。
(ま、僕もカッコいいしね♪)

ハツモウデをして、昨日のうどん屋の前を通ったら、「初詣は1回でいいんだよ」と店主に言われた。
僕たちは1回の意味が分からなかったけど、イルミは「お祈りは何回してもいいと思う」と自分なりに解釈していた。

昼は、旅館にモチを用意させた。
朝にも食べたのだが、イルミが大いに気に入って、また食べたがったのだ。
朝食ではスープに入ったモチが出されたが、昼は「いろいろお試しください」と、
ナットウのモチ、ノリの巻かれた茶色いモチ、アンコとキナコがかかったモチを用意された。
僕はナットウを飲み込むのが難しかったが、イルミは全て気に入り、アンコの豆を買うと言う。

その後は、また露天風呂に入る予定だった。
だが、イルミに止められた。


「ヒソカ、熱あるんじゃない?」

「熱…かい?」

「見てて食欲もないみたいだったし、顔赤いよ?」

「ちょっと寒いけど、ジャポンは寒いんだろ?」

「オレは寒くないよ。」


イルミはそう言うと、布団を敷いて僕の袴を脱がせた。
(寒い)と思う暇もなく、旅館の寝巻に着替えさせられ、「寝ててね」と部屋を出て行ってしまった。

_そう言えば、頭が痛かったっけ。

思い返しながら寝ていると、夕方になっていた。
雪が晴れたジャポンの夕日は赤く、美しかった。
体中のあちこちが局部的に冷却シートによって冷えている。
また、おでこは湿ったタオルが乗せられていた。
イルミは隣で突っ伏して眠っている。
しかし、その手は僕のおでこに乗せられたままだった。


いつも法外な値段で取引してデートをするけれど、たまにある、彼特性の媚薬が僕を捕えて離さない。





END.
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にじんこ様へ
『イルミのさり気ない所作に“ボクって愛されてるなv”と嬉しくなるヒソカ』

さりげなかったでしょうか?(汗)
なんとなくお話の流れを思いついて、がーっと書いてしまいました。
お気に召していただけるかどうか…(^^;)
「もっとこうして欲しい」などありましたら、おっしゃってくださいな♪

タイトルの「Vedrai,carino」は”かわいいぼうや”という意味ですが、
同名のオペラアリアの歌詞がこのお話にリンクしている部分があります。