Under the sea


雲ひとつないまっさらな空に、さんさんと降り注ぐ太陽。
ビーチへと向かうアスファルトの上を赤い車が走り抜ける。
BGMは風を切る音。


「君ん家のことだから、プライベートビーチの1つや2つあると思っていたけど、まさか海で遊んだことないなんてね〜。」

「海ですることなんてあるの?」

「海水に浸かったり、ボールで遊んだり、乙女たちは貝殻を拾ったりしているよ♪
 尤も、僕も家族に連れて行かれたことなんてないけどね♪」

「ヒソカには家族が居ないイメージしかないよ。」

「酷いなぁ。僕だって人の子だよ。」


なんてことないようなテンポで一般的ではないことを口走るのがいつもの二人だった。
イルミはナビに沿って一直線の道を走った。






駐車場に着くと、車1つない。
それどころか、ビーチにも人っ子一人居ない。


「みんな遊んでるって言ったじゃん。」

「君のために貸し切ったんだけど、僕と二人じゃ寂しいかい?」

「別に変装すれば問題ないし。」

「ん〜僕は素顔の君の水着姿が見たいんだよね〜。」

「変態。」

「はいはい、じゃあこれに着替えてね♪」

「覗いたら1億ジェニー。」

「分かってるよ。」


どうせ夜には脱がせるのだから関係ない。とヒソカは今宵の情事を想像しながら自分も着替え始めた。
そこにイルミの針が飛んでくる。


「ビーチの真ん中で着替えるとか何考えてるの?」

「痛いなぁ♪だって、僕が貸し切ったんだよ?」

「カフェには店員さん居るじゃん。」


先程から「イケメン!」等と黄色い声が飛んで来ていた。






雲ひとつないまっさらな空に、さんさんと降り注ぐ太陽。
青い海の美しいビーチでイルミの機嫌は絶不調。
そんな横顔を見つめるヒソカは両の頬に赤いもみじマークをつけてご機嫌。


「なんで暑い中女装しなきゃいけないわけ?」

「可愛いじゃないか♪」

「その反応してるスティック、使い物にならなくしてやろうか?」

「ぼ、僕泳いでくる♪」


イルミは白地に桃色の小さな花たちが散りばめられた、フリルつきの愛らしいビキニを着て、上から日焼け避け用の黒い長そでパーカーを羽織っていた。
少ない木陰に身を寄せて海遊びの何が楽しいのかさっぱり分からず、ヒソカについてきたことを後悔していた。

太陽が真正面に来る頃、ヒソカはイルミの機嫌を伺いにビーチに戻ってきたが、イルミの代わりに穴が掘られた跡を見つけた。
掘り返すと、案の定キレイな黒髪が埋まっている。


「イルミ〜機嫌直して僕と遊ぼうよ。」

「うるさい。ここが一番涼しいんだ。出たくない。」

「水の中はもっと気持ち良いよ?」

「本当?」

「もちろんさ♪」

よほど暑かったのだろう。
砂と海水でどろんこになったイルミがもそもそと出て来た。
ヒソカは心の底から貸し切りにして正解だと思った。






気を取り直して水に足を入れると、思いの外ひんやりと冷たく、火照ったイルミを冷ましてくれる。
波が寄せては引き返していく。
イルミはおかしな感覚に襲われ、思わずヒソカの腕をつかんだ。


「どうかした?」

「足の裏がくすぐったい…。」

「ああ、砂が掬われるからね。君はこれも初めてかい?」

「うん。変な感じ。」

「すぐに慣れるさ♪」


もっと深いところに行こう。
と、イルミの手を引いてヒソカがどんどん沖へ向かう。
「髪が濡れる」と小言があったがヒソカは構わない。
ほとんど身長差はないが、わずかにヒソカの方が高いためイルミが先に足元が覚束なくなる。
さっとイルミの腰を持ち上げて、自分は立ち泳ぎをする。
イルミの長い髪が彼の背中に張り付いている様がなんとも扇情的で、ヒソカは舌なめずりをした。

10分もしないうちに岩場に着いた。
そこにはイルミが見たことのない、小さなカニやヤドカリが居た。


「かわいい。」

「カニだよ。」

「こんなに小さくてもカニなんだ。」


イルミはそっと指を出す。
カニは威嚇してハサミを出す。
程なくして、イルミの指はカニのハサミにつかまれた。


「意外…。」

「なにが?」

「こんなに小さなものにも、これくらいの力があるんだね。」

「小さくても野生のカニだからね。」


そんなことよりイルミ…。
と、ヒソカが唇を寄せる。


「は?ここでするの?」

「もちろん♪青空の下でお日様に見られながら、開放的にヤろうよ♪」


お前、動物以下。
とヒソカを岩場から突き落とす。

瞬間的に岩場へ投げたバンジーガムで難なく戻ってくるヒソカだったが、イルミがカニを見つめるのに忙しいのを見て、小さくため息をついた。















「…お腹空いた。」


そうイルミが口にしたのは夕日になりかけた頃だった。
僕もとてもお腹空いたよ。とヒソカが返し、ビーチの方を見つめる。
イルミは針で髪をまとめ、運んでもらう準備完了だ。

カフェでロコモコというランチを食べ、お茶を飲みながら一息つく。


「海って楽しいね。」


イルミは初めて見る生き物に夢中で、無言の中でも楽しんだようだった。
ヒソカはと言うと、イルミにはしっかり日焼け止めを塗ったのに、自分のことを忘れており、ヒリヒリした肌を労わる。


「それは良かったよ。」





「また来ようね。」


とイルミから囁き、頬にキスをした。


「…イルミ…。」


イルミからのキスは初めてだ。
「今夜は離さないよ♪」そう囁き返して、イルミに針を刺されるヒソカだった。





END.
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海ネタ…そろそろ季節外れかもしれませんが、まだ間に合いますよね?
ギリギリ8月だものね?
「初めての海」とか、「初めての○○」ってネタは何番煎じか分かりませんが、思いついてしまったので仕方ありません。
本当は「海ってしょっぱいんだ。」ってセリフも言わせたかったのですが、入れるタイミングを逃しました。