Tosca




ヒソカの部屋に行くと、いつも何かしらBGMがかけられている。
生演奏コンサート以外の音楽を聴く習慣がないイルミは、最初こそ居心地の悪い思いをしたが、メロディーが耳に慣れると気にならなくなった。
しかし、どの音楽も「好き」とまではいかなかった。

ヒソカはいつも「どんな音楽が好み?」と聞いてくるが、「なんでも聞くし、好きでもなければ嫌いでもない」という返事しかしたことがなかった。
それでも、お金持ちの長男らしく、クラシック音楽は生活に溶け込んでいるのか、いつもよりオーラが和むようだとヒソカは感じていた。
ただ、それでも和むだけで、24歳の若者らしく「歌手の○○が熱い!」といった感じではなかったのが不服だった。

(僕もなんでも好きなんだけどね。)

イルミは完成された闇人形だ。
しかし、それをヒソカは壊したい。
すなわち、生き物にしたかった。

触ればイルミの低い体温が伝わってくるし、胸に耳を当てれば心臓の音も聴こえてくる。
それでも、ヒソカは足りない何かを求めた。

会う度に、音楽をかけた。
もちろん、情事が始まる際はイルミの気分によって消すが(もっとも、二人の間で合意の上の性欲処理だったが)、
食事の時も入浴も音楽を側に置いておいた。


「…これ、いいかも。」


ある時、イルミはふと小さく呟いた。
注意していなければ聞き逃してしまうような声だ。
ヒソカはイルミの言う、「これ」が何か一瞬分からなかったが、イルミはソファに座っているだけで何もしていない。
始めの目的も忘れかけていたのだが、ヒソカにしては奇跡的に思い出した。


「この音楽かい?」

「うん。」

「いいだろ〜。世界の歌姫、Donna NANAだよ♪」

「どんななな?」

「Donnaはイタリー語で"女性"って意味みたい。」

「ふぅん。なんか同じ感じの繰り返してて覚えやすいかも。」

「そう言えばそうだね♪君が興味を持ってくれて嬉しいよ。僕はNANAが好きなんだ♪」

「Lalalalalalalala Lalalalalalalala♪」

「…イルミ、意外と歌えるんだね。」

「バカにしてるの?」


そんなことないさ。と言いくるめて、ヒソカは心の中で思った。
彼がこのまま闇人形として生きていられなくなったら自分の勝ちだと。

しかし、そんな思惑とは別に、イルミは毎回NANAの名前を忘れた。
ヒソカは根気強く、NANAの名前を繰り返した。

"NANAはジャポンが好きらしいよ"

"今日はNANAの誕生日だよ"

"NANAが結婚したよ"


そしてついに、イルミはNANAの名を口にした。


「オレにNANAの暗殺依頼が来たら嫌だなぁ。」

「…そうだねぇ。彼女を殺してしまったらつまらないよ。」


ヒソカは自分でもビックリしたが、壊れた闇人形を殺そうとは思わなかった。
これまでは"壊れたお人形さんなんて、すぐに飽きる"と思っていた。
それよりも、人間くさく、NANAの話をもっとしたいと思った。
それが何故なのか。
ヒソカには分からない。





後日。


「NANAのコンサートのSS席チケット取れたけど、ヒソカも行く?」

「本当?いいのかい?」


すっかりNANAにハマりこんでいた若者二人だった。





END.
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もちろん、GAGAをもじっています。
何だか一般人ぽい二人を書いてみたかったのですが、あんまりそんな感じしませんね。

タイトルのトスカはオペラ「トスカ」に出てくるトスカ・フローリアという歌姫からとりました。