Dolls song
「はい、これ今日のね♪」
そう言って当たり前のように服を渡してくるヒソカ。
小さくため息をつきながら、イルミはそれに着替えて行く。
今日のファッションはモード系だろうか。
黒のスパンコールミニスカートにガーターベルト、ターコイズブルーと黒、白と黒、派手なピンクと黒の3部構成になっているボーダーのふんわりポンチョ型ニット。
そして、赤いヒールと同じ赤のわざと安っぽいイヤリング。
(ヒソカこんなの好きだったっけ…)
しかし、ヒソカの好みの変化はいつもの事で、服装のジャンルが毎回違うなんて当たり前。
初回は「ドールならこれだよね」とロリータ服を持ってきたが、彼にしては珍しくスカートの裾がイルミの長い脚に見合わない物で人形らしくなく、泣く泣くイルミの私服でデートをしたのだった。
着替えをずっと見ていたヒソカだったが、全て終わりイルミが両手を広げると、抱きしめながら「すごくイイよ」と言った。
このハグも恒例の儀式だった。
ヒソカのこだわりはイルミが呆れるほどで、すぐ飽きる癖に綿密な計画を立ててデートに臨むのである。
「ヨークシンで1番大きなディスコに行こうか♪」
「うるさいのは好きじゃないよ。」
「耳もすぐ慣れるよ。」
意外に思うかもしれないが、デートの主導権はヒソカが持つことが多かった。
それも有料のデートという事もあるが、仕事で疲れたイルミは(早く終わらないか)という気持ちで居たので、ほぼ彼に任せていた。
(それに、ヒソカはいろんな遊び知ってて楽しくない訳じゃないし…)
ディスコは平日のためか、イルミが思ったより人が少なかった。
ブラックもホワイトも入り乱れて踊っている。
ベージュはよく見なければわからないが、そんな発音も聞こえてくるのでディスコの中には確実に居るのであろう。
「もぅすぐだよ。」
ヒソカがそう言い放った数分後、メロディーが変わった。
チークタイムである。
(今時…)
イルミはそう思ったが、意外とみんなおとなしくくっついて揺れている。
「おいでイルミ。」
そう手首を引っ張られ、ヒソカの腕に抱かれてゆっくりと揺すられる。
(この後の情事に似てる)
イルミはそう思いながら、メロディーを聴いていた。
「ヒソカ…君もベタなのが好きだね。」
「どうしたしまして♪」
「褒めてない。」
しばらく続いた後、一瞬で変わってしまったメロディーにイルミは感動し、ぼやぼやしていたが、名前を呼ばれてハッとし、「お酒が飲みたい」とヒソカに言った。
「はいはい、お姫様。今日はワイン?カクテル?」
ヒソカは既に3件ほど高級なBARの席を予約していた。
イルミはそれを知っていて、あえてマイナーな物を注文するが、ヒソカは難なくフルーツビールを置いている店の席を確保する。
「お腹いっぱい。」
とグラス半分残して、フルーツビールをヒソカの方へさりげなく置く。
「僕、残飯処理は担当してないんだけどなぁ。」
「オレの酒が飲めないの?」
「可愛いね♪」
緩慢な拍手をイルミに贈り、ヒソカはグラスを空にした。
自分の頼んだものはとうに流しこんでいたヒソカが席を立つ。
「そろそろ行こうか。」
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ホテルについてからは、火が点いたようにヒソカがキスをし始める。
これもいつもの事。
「ん…お酒の匂い…。」
「…はっ…興奮するじゃないか♪」
シャワーを浴びながら、ソファの上で、ベッドの中で、窓際で…
あらゆる場所で、あらゆる体位で抱かれる。
そう、まるで人形のように。
1つ、人形とは違って、イルミにも体温がある。
イルミは知らないが、それがヒソカにとって彼を手放せない理由だった。
「可愛い…可愛いイルミ。…君は僕の物だ。」
「…あんっ…それ、プロポーズ?…はぁ…」
「そうだねぇ…絶対に手放さないよ。」
「…ふっ…期待しないで、おく…あっ!」
今夜はこの言葉ばかりは違っていた。
ビジネスの関係から、どんどん自分の心を覆われているような感覚にイルミは陥った。
(人形は持ち主が飽きても、文句も言わない。そう、オレも…)
ヒソカの本気なんて分からないけれど、その日が来るまでは…。
END.
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着せ替えされるイルミが見たかったのがきっかけでしたが、あんまり着せ替え要素入れられませんでした。