Brindisi
ポツポツと窓に雨が叩きつける音。
高級マンションの最上階からの夜景。
イタリーのプロシュートとフロマージュ。
全てが揃ったこの空間で、ヒソカとイルミは何を話すでもなく共に居た。
時折、イルミが一口サイズに切られたフロマージュを口にしながら、カクテルを喉に流し込む。
毒の効かないイルミにアルコールなんて意味のないようなものだが、"我慢できる"というだけで、実際はかなり酔っていた。
平静を装い、いつもの通り会話もできる…はずだった。
「イルミ、もぅお酒終わりにしなよ?」
「ん〜…。」
こんな会話のみ繰り返される。
珍しく、イルミが"お酒飲みたい"と言うものだから、リキュール類の揃ったマンションに招き入れたのに、
普段以上に人形になるとはヒソカのとんだ誤算だった。
_そういえば、仕事の話をする時もジュースみたいなの1杯飲む程度だったっけ。
今更そんな事実を思い出したところで仕方がない。
「ねぇ、チョコレートのお酒ってあるの?」
「あるよ♪飲んだことないなら、家においでよ♪」
そう約束して実現した今宵のデート。
イルミはチョコレートのリキュール、「Wolfy」を大変気に入り、生クリームを浮かべて飲んだり、
ミントリキュールと合わせて色の黒いグラスホッパーで飲んだりした。
オレンジピール入りのフォルマッジョばかり無くなり、プロシュートはまるで手を付けて居ない。
_暇な時にイタリーから買って来た貴重なものだけど。
まぁ、お金に困るわけではないから良いのだが…と一人、自分を納得させながら水を出した。
「…キング・アルフォンソがいい。」
「ダーメ、君、気付いてないのかもしれないけど耳まで赤いよ?」
「…甘いの…」
ちゅっ
「…殺されたいの?」
「僕は甘いよ♪」
やれやれ。と、今夜はおあずけなのがわかって居ながら、リキュールを手にする。
グラスに注いでいると、「ふりふりして」とシェイクのリクエストが上がったが、もぅ手遅れである。
「これで少し、しゃんとしておくれよ。」
コトリ。と、飾り切りされたピンクグレープフルーツの刺さったアプリコット・クーラーを差し出す。
犬のようにまず香りを確かめるイルミ。
そして、猫のように舌をチロリと出して舐めるように一口。
微炭酸が舌の上ではじけた。
「なんのお酒?」
「杏だよ。Wolfyより度数が低くて甘いんだ♪」
「…美味しい…」
イルミは心なしか、目をとろんとさせていた。
_ああ。
_美味しそうなのは君の方だよ。
洗ったグラスを片付け、イルミの隣に座って彼が手を付けて居ないプロシュートをつまむ。
すると、こちらを向いたイルミが深く口づけしてきた。
否、アルコールを流し込んできた。
ヒソカの口の中で塩味とさっぱりしたアプリコットの香りが混ざり、"カレーにリンゴをすりおろさずに入れたらこんな感じ?"とヒソカは思った。
「美味しい美味しい…。」
そう言ってすり寄ってくるイルミ。
訳が分からないのはいつもの事だが、酔っているのだと思うと大変愛らしく見えた。
イルミの髪をつかんで、後頭部をマッサージするかのように指先で撫でてやる。
こうされるのが彼のお気に入りなのは、随分前になんとなく気付いた。
身長差がそんなにないから辛いであろうに、イルミはヒソカの胸元に寄りかかり、心臓の音を聞くように手を当てた。
「ヒソカも生きてたんだね。」
「お姫様は死人がお望みかい?」
「腐っちゃうから嫌だな。」
「そうだ。まだ甘いの飲みたい?」
「もぅ炭酸でお腹いっぱい。」
「じゃあ、飲ませてあげるよ♪」
_は?そうイルミが思っていると、半ば強制的に立たせられ、パンツを下ろされる。
先ほどから舌舐めずりをしていたし、ヒソカのやりたい事は分かっていた。
つもりだった。
ヒソカのやりたいようにさせていたら、イルミは上半身をカウンターにくっつけてヒソカにお尻を突き出す体勢になっていた。
_なにこれ?慣らしてないのに入る訳ないじゃん。と思っていると、ヒソカはピンク色をしたグレナデン・シロップのボトルを手にしていた。
しかし、それを潤滑剤にするのではなく、そのままイルミの後ろに突き刺した。
「…痛いんだけど。」
「これすごく甘いんだよ♪舐めるかい?」
「ヒソカは自分の舐めれるの?」
「次はこれね♪」
「!?」
お尻の中が火を点けられたように熱い。
呼吸を荒くしながら後ろを振り返ると、緑色の瓶の中身が注がれていた。
「…っはぁ!ヒソ…カ!…それ何?」
「アブサン♪」
「誰!?」
「68度あるからね〜さすがのイルミもキツイんじゃない?」
「ふ…ぁ…あつぅ…っ」
「ふふふ、直腸だから効くよね♪」
みるみるうちにイルミのそれはそそり立ち、先から滴を零している。
ヒソカはそれを促すように指と手のひらで扱き、イルミの嬌声を楽しんだ。
お酒のせいか、イルミは甘えた猫のように腰をくねらせ、ヒソカを要求する。
しかし、「楽しみは始まったばかりだよ」と窘め、はち切れそうになった自身を取り出し、イルミを四つん這いにさせ口に含ませた。
彼は意外にも従順にヒソカのものを大事そうに慰める。
大きくなったヒソカのそれは、イルミの喉の辺りまで達し、イルミの呼吸を遮った。
柔らかな唇と、湿った舌、ひくつく喉元の動き1つ1つに感じるヒソカ。
イルミの頭を指で撫でながら、「甘いの好きだよね?」と奥に放つ。
大量の愛液に苦戦しながらもイルミは飲みほした。
「イルミ…今夜の君はとってもいい子だね♪」
「甘いの…」
「うん♪これも似合いそう♪」
そう言うと、ヒソカは先ほどのピンクのグレナデン・シロップを指に垂らし、イルミの唇に塗り付けた。
おかげでイルミの唇はつやつや、ぷるぷるとなり、性的興奮を高める材料には十分だった。
「バスルームに行こうか♪」
イルミをお姫様抱っこして連れて行き、猫足のバスタブへ放り込む。
着ていたシャツを脱がせ、イルミの好きなぬるま湯をかけてやる。
「んぅ…ヒソカ、熱い…」
「まず後ろキレイにしようね♪」
イルミの後口からはアブサンが少しずつ流れ出て、ぬるま湯と共に排水溝へ消えて行った。
ヒソカは器用に腕まくりをして服を濡らさずにイルミの後処理をしている。
その指の動きにも感じるのか、背中を仰け反らせながらイルミは声を出してヒソカの名を呼んだ。
「子猫ちゃん…そんなに呼ばないでおくれよ。興奮しちゃうじゃないか♪」
「早くぅ…んんっ…欲しいよ」
「君、こんなにしちゃって…くくく…一度出した方がいいね♪」
バスタブの淵にイルミを座らせ、ボディソープを手にすると滑りを使って緩急をつけながらイルミのそれを扱いた。
全身がだらしなく弛緩し、上半身をヒソカに預けて、足も自然と開いた。
愛しい恋人を支えようと、イルミのお腹を押さえた時、耐えきれなくなったイルミが熱を吐き出した。
はぁはぁと息を荒げてヒソカを見つめるイルミの目は潤んでおり、ヒソカは入れてしまいたい衝動を抑えるのに激しいキスをした。
お互い呼吸もままならないキス。
相手が何を思っているのかは分からない。
ただ、熱を貪って、零れ落ちる唾液すら気にならなかった。
「あっあっ…っああ!ヒソカ!も…入れてよぅ…」
「よく我慢したね♪ご褒美だよ!」
「はぁん…」
ずっと奥で感じたかったヒソカを得て、イルミはうっとりするように息を吐いた。
その反応にヒソカもまた満足し、イルミを貫く。
…が、イルミの熱に浮かされた体は力が入らず、壁に寄りかかるのも辛そうだった。
そこで、ヒソカは繋がったままイルミの両腕を後ろから引っ張り、腰の力だけでピストン運動を繰り返した。
「やっ!…激し…あっ!」
その後、場所をソファ、窓際、ベッドと移動し、その度に体位を変え、酒を飲み、獣のようにセックスを繰り返した。
こんなにも体を重ねる事に夢中になったのは、二人とも未だかつてなかった。
翌日。
(…頭痛い。…お尻痛い。…何これ、あぶさん?)
「ねぇ、ヒソカ、この数字は何?」
「へ?」
「68って何なの?」
「…ちょっと大人しくしてておくれ。僕、頭痛いの。」
「オレも頭痛いよ。何の数字?」
「69だったら分かるけどなぁ。」
ヒソカが昨夜、イルミのバーテンをしながら飲んでいたのはアブサンという度数が68の酒の水割りだった。
また、イルミの後口に流し込んだのも同じものである
。
このアブサン、芸術家たちがインスピレーションを求めて愛飲したとされ、長い間人気を博していたが、
あまりに度数と依存性が高いため20世紀に製造禁止になったものが、ここ20年程で解禁されたのである。
「ヒソカも二日酔いなんてするんだね。」
「くくく…イルミに看病してもらいたいがために、僕はアブサンを飲むのかも♪」
「オレは帰るよ。じゃ。」
「…。みんなは、お酒の飲み過ぎには気を付けようね♪」
END.
***********************************************************************************************
私自身、酔った状態で書きました←
酔ったと言ってもパヤパヤしていただけですが、やはりお酒入ると恥ずかしげなく書けますね(笑)
WolfyはチョコリキュールのMozartoを彼の愛称に直しただけの簡単な由来です。
その他にも出て来たカクテル、お酒たちは全部実在するものです。
タイトルの「Brindisi」は「乾杯」という意味で、ヴェルディのオペラ「椿姫」の乾杯の歌から取りました。